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大ナゴヤノート.
2025年12月31日

はしからはしまで
-水郷のまち・愛知県蟹江町をめぐる-

名古屋市の西隣に位置し、町内を6本の河川が流れる愛知県蟹江町で、とあるイベントが開催されると知ったのは昨夏の終わり頃でした。そのイベント名とは…

水郷のまち・蟹江町 108橋巡礼デジタルスタンプラリー

いや待て待て待て。いくら川が多いからって、いくら町の総面積の5分の1を河川が占めるからって、108もの橋なんてないでしょう!
蟹江町は私にとって生活圏。毎日のように町内を西へ東へと移動していますが、自転車で蟹江川や日光川を渡るときには、勾配のある橋を前に少々気合いを要します(アシストなし自転車で上るのは…/苦笑)。橋が108もあったら、出かけるたびに何度も橋を上り下りしなければならず、今ごろ膝が悲鳴をあげているはず。でも、日常のちょっとした外出なら膝への負担を感じずに済むことも多く、100以上もの橋が町内にあるとは思えません。

ちらっと地図を見てみると、私が「そこに橋がある」とは認識していないような場所にもチェックポイントの印がついていました。よくよくイベントの告知文を読んでみれば、「108」というのは町道にかかる橋を数えた数とのこと。蟹江川や日光川といった大きな川だけでなく、町道と交わる小さな水路などにまたがる橋も対象のようです。それにしたって、そんなに橋あったかしら。

「スタンプラリー」。その語に私は、大人になった今でもちょっと反応してしまいます(笑)。ただ、このイベントはデジタルスタンプラリー。所定のアプリをインストールしたスマホを持ってチェックポイントに行き、位置情報を認証させることでアプリにスタンプを貯める形式です。
―昔ながらの、インクのついたハンコを台紙に押す形でないのは、どこか味気ない気もする。アプリをインストールするのも煩わしいし。そして、橋ねぇ。橋かぁ。気にならなくもないけれど、特別惹かれるほどでもないような…。
そんな思いが頭の中をぐるぐるすること数日。気づいたら私のスマホにアプリがインストールされていました。あれ、おかしいな(笑)

最初にスタンプをゲットしたのはJR蟹江駅で。線路の南北をつなぐ連絡橋*がチェックポイントになっているので電車を待っている間にさりげなくゲットしました。ひとつゲットしただけでも、なんだか誇らしく感じるのはアナログのスタンプラリーと同じ。そこから2個目、3個目とスタンプをゲットしていくのは自然な流れでした。

* 正確には「蟹江駅南北自由通路」。蟹江町が管理しており、後述する個別施設計画の対象橋梁にも含まれている。

序盤は、日常の外出で通る道、行き先のエリアにあるチェックポイントを確実に取りにいく戦法。出かける前にだいたいの位置を確認しておき、そこに近づいたところで地図と現場を照合します。川や水路が見えていて、橋らしい構造物のある場所なら「あぁここね」とすぐわかる一方、ただの平坦な道にしか見えない場所にチェックポイントの印がついていることも。「橋なんかないじゃん」と思いながら周囲を見回すと、欄干代わりのようなガードレールや、足元にアスファルトからコンクリートに切り替わるラインなんかがあって、「ここが橋と道路の境目…!」と驚かされます。

いつもよく通る道だけでもあっという間に20個ぐらいのスタンプをゲットできました。しかしまだまだ、半分にも及びません。もともとの行動圏内のチェックポイントが飽和してくると、普段の外出時に少し大回りをしてみたり休日にわざわざスタンプだけのために出かけたりするように。マップを眺めては、今日はどこまで行こうかな、どういうルートで行こうかな、そんなことを考えている時間も楽しむ自分がいました。

知らないエリアに足を伸ばすようになると、いろいろな橋のカタチも見えてきます。最もインパクトのあった橋はこちら。

どこに橋が…ってほら、農道から田んぼ側にコンクリート板が渡されているでしょう?周囲の雑草の伸び具合を見るに、この橋、もはや橋として機能していないのでは。そう疑りたくなるのは私だけでしょうか。

変わった橋だけでなく、橋らしい橋にも発見がありました。

上の写真に写るのは、車道と歩道とに仕切られた幅広な1本橋…だと思いませんか。ところが実は、ここには2本の橋が写っています。注目すべきは、橋の上で仕切りの役割を果たしている柵のようなもの。この“柵”は、ひとつの橋を車道と歩道とに分けるためのものではなく、自動車用の橋の欄干と歩行者用の橋の欄干とが背中合わせになったものらしいのです。両橋にはちゃんと「大海用橋」「大海用橋橋側歩道橋」という名前も。それぞれがスタンプラリーのチェックポイントなので、これらの橋のたもとではふたつのスタンプを同時にゲットできてしまいました。思いがけないボーナススポット。

ボーナススポットにはもうひとつのパターンがあります。橋の一覧を眺めていてふと目に留まるのが、「○○1号橋」「○○2号橋」のように番号が振られた橋群。そうした橋群を目指して現地に行くと、用水路が通っていて小さな橋が数メートルおきにかかっているのです。少し歩くだけでスタンプを一網打尽にできる、これもれっきとしたボーナススポットといえるでしょう。

ひとつ解せないのは、後者のボーナスパターンの橋群は必ずしも連番にはなっておらず、1号橋、2号橋、3号橋、5号橋…のように飛んでいるケースがあること。でもそんな橋群の付近には、スタンプラリーのチェックポイントには指定されていないけれどどう見ても橋の形をした構造物が存在していることもあるのです。「もしや、これが飛ばされた4号橋?」。
スタンプラリー対象に含まれていない名もなき橋の正体が気になって、もう少し詳しい資料はないかと探したら、「蟹江町橋梁 個別施設計画」という計画書に行き当たりました。そこには蟹江町が管理する橋梁一覧が載っており、スタンプラリーの対象とほぼ一致します。わずかに数が合わないのは、国道や県道など、町道以外にかかる橋がスタンプラリーでは対象外だから。

…そういえば道路って、国道・都道府県道・市町村道のほかにもあるのだろうか。いやあるよね。国道・都道府県道・市町村道は「道路法上の道路」だけれど、道路法が適用されない「法定外道路」として農道や林道、里道などがあるらしい。そうか、スタンプスポットではない地点に存在するあの構造物は法定外道路にかかっている橋で、周辺の橋とともに連番の橋群をなしているということなのでは。…その仮説を確かめる資料にはたどりついていませんが、私には、あの名もなき橋たちが飛ばされているn号橋なのではないか、と思えてなりません。

そんなこんなで、私の橋スタンプコレクションもいつの間にやら100個を超えていました。ほんの退屈しのぎのつもりで始めたスタンプラリー。まさか町内を北から南まで駆けまわり、こんなにもさまざまな橋に出会うことになるなんて思ってもいませんでした。今では蟹江町外の、これまでただの平坦な道だと思っていた場所で「あ、ここ、橋だったんだね」と気づくことも(なんの特技だろう/笑)。橋への意識は町のはしを越えてなお続いています。

写真:脇田佑希子

脇田 佑希子

愛知県海部郡生まれ。なんちゃって理系のサイエンティスト+編集屋+瓦を追うひと。暇さえあれば軒丸瓦を探しにまちへ繰り出すおさんぽ好き。まちに埋もれたお宝を、人それぞれに発掘できるような“仕掛け”を創りたいと日々思案を重ねている。
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