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大ナゴヤノート.
2019年09月04日

自分の中に息づく喫茶店を磨き続ける
-「喫茶ニューポピー」マスター 尾藤雅士-

「あー、おいしいコーヒーが飲みたい」と思ったとき、すぐに心に浮かぶお店があります。2019年1月にオープンした「喫茶ニューポピー」です。
四間道の一角にあるお店の中は、いつもコーヒーの香りで満たされています。
マスターの尾藤雅士さんは、喫茶店「喫茶ポピー」を営む家庭に生まれた生粋の“喫茶店っ子”。加えてお父さまは、飲食店に食料品を卸す問屋の仕事もされていて、尾藤さんもよく仕事中のお父さまと一緒に、たくさんの喫茶店をめぐっていたそうです。

「喫茶ニューポピー」マスターの尾藤雅士さん

小さな頃から喫茶店がある生活が当たり前だった尾藤さんが、自らお店を開く。いったい、どんなお店にしたいと考えたのでしょうか。

めざしたのは、「懐かしいけれど新しい」喫茶店かな。子どもの頃からいろんな喫茶店を見てきた分、体の中にある「喫茶店」を自分なりに磨きあげて形にするのが、自分のやりたいこと、やるべきことだと思ったんだよね。

店内はどっしりとした落ち着きがありながらも、古臭さはまったく感じられません。店内のどこを見渡してもピカピカとしていて、気持ちいい空気が流れているように感じます。

丁寧に淹れられる様子を間近で目にできるのが、カウンター席の特権です。

カウンター奥には、コーヒーミル(注文ごとに1杯分ずつ豆を挽いています!)やカップなどが並びます。

尾藤さんは開業にあたって「お店であり、会社である」空間にすることも目標に掲げました。というのも、尾藤さんはコーヒー豆の自家焙煎・卸売、取引先のコンサルティングなどを行う「Beans Bitou」の代表取締役でもあり、「喫茶ニューポピー」は事業のひとつとして、立ち上げに至ったからです。
実際に、平日の日中や夜などお客さんの少ない時間帯には、店内で生豆の焙煎や卸先への商品の仕分け作業など、会社としての仕事を行っています。

明確な目標があったこともあり、物件探しには約3年もかかったそうです。「この場所にめぐり合ったとき、一発で『ここだ!』と思えたね」と、尾藤さんは笑顔で当時を振り返ります。

カフェは世界各国あるけれど、喫茶文化は日本ならではだし、日本の中でも名古屋は喫茶文化がとがっているまちだと思うんだ。円頓寺・四間道には日本人だけでなく海外からの観光客も多いし、観光スポットのひとつとしてうちに来てくれることを想像したら、すごくいいマッチングだ!って直感したね。

場所も決まり、いよいよ開業に向けて準備をスタートした尾藤さん。内装から看板デザイン、メニューの考案など、やることは盛りだくさんです。その一つひとつをクリアしていくまでには、多くの人たちの支えがありました。

建築家の市原さん(市原正人さん。円頓寺商店街再建の立役者)とは、今回はじめて一緒にお仕事をさせてもらったんだけれど、いつも夜遅くまで打ち合わせに付き合ってくださって。お忙しい方なのにいいのかな、って僕が思ってしまうほどだった。でも、何度も打ち合わせをしているうちに、お互いの趣味の話で盛り上がるとか、仕事とは関係ない話題が出てくるようになったんだよね。単なる建築家と依頼主ではなく、人対人の関係ができたと思えて、うれしかったなぁ。

内装の施工時、一部のタイルの向きが間違っていると尾藤さんが気づいた際には、市原さん自ら職人さんにタイルの貼り直しを交渉してくださったそうです。

最初の施工では、タイルが横向きに貼られていたカウンター上の壁面。交渉の末、当初の指示どおりに貼り直してもらったそうです。

もしかしたらタイルの向きが指示どおりでなくても、誰も気に留めないかもしれません。わざわざ直す手間を考えたら、そのままでもいいと妥協することもできたでしょう。でも、他でもなく市原さんが妥協を許さなかった。「時間をかけてコミュニケーションを重ねたからこそ、真剣度合いが伝わったのかな」と話す尾藤さんの言葉には、ふたりが細部にまでこだわり抜いた情熱と、それを貫こうとしてくれた市原さんに対する感謝がにじんでいるように思いました。

焙煎機が置かれる土台部分。当初は青系のタイルを貼る予定だったところを、焙煎機のカラーリングと調和する色合いに変更したそうです。

市原さんの他にもデザイナーや友人などとたくさん対話を重ね、お店を形づくっていった尾藤さん。「たくさんの人の熱量を、どうしてここまで引き出せたんだと思いますか?」と聞くと、きっぱりとこう答えられました。

だって僕自身が、誰よりも熱量を持っていたから。
めざすことを形にするのは、ひとりじゃなかなか難しいよね。でもつくりたいものや、やりたいことをしっかり示せば、人はついてきてくれる。みんな誇りを持って仕事をしている人たちだからこそ、どんどん熱量が上がっていったんだと思うよ。

お店のロゴ、カップ、伝票、箸袋……一つひとつのデザインがとても洗練されていて、見ていてワクワクしてしまいます。

この言葉から、思わず「このお店に満ちているのは、コーヒーの香りだけではなかったんだ!」と感じました。いろんな方の「熱意」があふれていて、それを自然と感じていたから、私はこのお店が大好きになったのだと思います。

改めて、尾藤さんにとって「喫茶店」はどんな場所なのかを聞いてみました。

老若男女、誰でも足を運べる場所かな。カフェはおしゃれすぎて、ご年配の方だと気後れして入りにくいと感じてしまうかもしれない。でも、ちょっとレトロな喫茶店なら入りやすいだろうし、子どもや若い子はかえってこの雰囲気を楽しめる。それにコーヒーなどの飲み物だけでなく、カレーやナポリタンなども提供しているから、食事もできる。気兼ねなく、気負いなく過ごせる。それが喫茶店なんだと思っているよ。

ふと、ある思い出が私の頭の中をよぎりました。父とふたり、祖父母が生活する2駅先のまちまで出向いて、一緒にモーニングを食べる。チェーン店のときもあれば個人店のときもあるけれど、朝に出かけるのはいつも喫茶店でした。今も昔も、喫茶店は「懐が深い場所」なのかもしれません。

そうであるといいよね。そういう、誰でも受け入れられるお店に「喫茶ニューポピー」を育てていきたいかな。
今回お店を立ち上げてみたけれど、やればやるほど、足りないピースに気づかされるよ。だけど、だから続けられるんだと思う。オーナーとしては、早く完成させたいけれど(笑)

オープンから半年あまり。今も内装に手を加えるなどして、アップデートを重ねているそうです。これから「喫茶ニューポピー」に行かれる方も、すでに行ったことのある方も、一歩足を踏み入れたら新しい発見があるかもしれませんよ。

喫茶ニューポピー

伊藤 成美

名古屋市生まれ、瀬戸市育ち。デザイナーや玩具の企画開発アシスタント、学習塾教材制作などを経て、縁あってwebメディア運営会社のライター職に就く。インタビュー記事の執筆を中心に経験を積んだ後、フリーランスに。大ナゴヤ大学では、ボラスタや授業コーディネーターとして活動中。
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