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大ナゴヤノート.
2019年11月13日

自分の時間に帰ってこられる自然の中の古本屋 -「庭文庫」店主 百瀬雄太・百瀬実希-

私には、ゆっくりしたいときにふらりと訪れたくなるお店があります。そのお店は、岐阜県恵那市の笠置山(かさぎやま)の麓にある古本屋「庭文庫」です。庭文庫は、木曽川の目の前にある築100年以上の古民家で営まれています。

古民家の土間には、本の一節を書いた黒板があり、毎日違う言葉で来る人を出迎えてくれます。人文系や美術系を中心に多くの古本が並べられているのは、古いたんすを活用した書棚。庭文庫は古本屋ですが、出版社から直接入荷した新刊を扱うセレクト書店でもあります。古本・新刊ともに店主がこだわりを持って選んだ本に出会えるのが、庭文庫の魅力のひとつです。

自然に囲まれた古民家で庭文庫を営むのは、百瀬雄太さん(ももちゃん)と実希さん(みきちゃん)のご夫婦。おふたりがどのような経緯で古本屋を始めたのか、その想いを伺ってきました。

2017年1月に、出張古本屋としてイベント出店からスタートした庭文庫。はじめは地域のマルシェなどのイベントに出店していました。毎回、軽自動車いっぱいに古本を詰め込んで、搬入するのが大変だったそうです。

なぜ古本屋を始めたのかを聞いてみたところ、みきちゃんは「実はきっかけを覚えていないんだよね」と笑います。ただ、恵那市には大きい新刊書店しかなく、個人営業の古本屋がないことに、少しさみしさも感じていたのだとか。もともと、1日限りのイベント出店ではなく、「いつでも好きなときに行って好きに過ごせる場所をつくりたい」と考えていたおふたりは、出張古本屋として活動を始める前から古本屋をする場所を探していました。

次第に地域の人とのつながりが生まれ、古本屋の活動を応援してくれる人を介して店舗となる古民家と出会います。木曽川にかかる赤い橋が見えるロケーションと、木々に囲まれ、鳥のさえずりが聞こえる空間に「ここだ!」と直感。すぐに古民家を借りることはできませんでしたが、地道に出張古本屋としての活動を続けながら紆余曲折を経て、2018年4月28日に念願の実店舗をオープンするに至りました。

出張古本屋から実店舗を持ったことで、変化も大きかったといいます。出張古本屋はイベントなのでその場限りのお客さんが多いですが、お店を持ったことで常連さんも増えてきました。地域の人だけでなく、岐阜県外からも庭文庫に何度も来てくれる人もいます。

庭文庫をスタートして1年半。おふたりにとってうれしかったことを聞いてみました。

(ももちゃん)
お店を維持していくことは、楽なことばかりではありません。夏場は草刈りが大変だし、地味で手間のかかる作業もたくさんあります。でも、大変なことも含め、仕事が嫌ではないということが、僕にとってはうれしいことです。東京で働いていたときのオフィスは息苦しい空間だったので、居心地が良い場所で仕事ができるのもうれしいかな。

それに、庭文庫をやっていることで、好きな表現者やアーティストを呼んでイベントを開催できるという醍醐味もあります。昔からファンだった写真家の齋藤陽道さんのイベントを庭文庫で開催できたことも感慨深いですね。

 

(みきちゃん)
やっぱりお客さんがみんないい人なのが一番うれしい!お店にある古本も、買取ではなくて、ほとんどが地域の人やSNSを通じて寄付してもらったものです。本当にありがたいですね。ここでは「店主と客」よりももっとフラットな関係で、お客さんがおのおの楽しんでくれているのがいいなあと思っています。最初はイベントをやるなら「お客さんを楽しませなきゃ!」というプレッシャーがあったけど、お客さんが自由に楽しむ姿を見て、それでいいんだと気づかせてもらいました。

「店主と客」という垣根を越えて人が集まってくる庭文庫について、ももちゃんは「僕たちも庭の野生動物の一匹」だと表現します。店主でありながら、ももちゃんとみきちゃんも自然に庭で過ごしている一員なのですね。

お話を伺ううちに、おふたりが古本屋をやろうと思い立った背景を知りたくなりました。きっかけは覚えていないというものの、古本屋をやろうと思った理由の中には、おふたりにとっての原体験があったのかもしれません。「自分たちで古本屋を作ろう!」と話がまとまり、実際に庭文庫をスタートさせたおふたりにとって、本屋とはどんな存在だったのでしょうか。

(ももちゃん)
僕は子どもの頃は東京に住んでいて、小学校の終わり頃から高校まで恵那で過ごしました。恵那にいた中高生のときは、漫画を読むことが多くて、活字の本はあまり読んでなかったんです。本を読むようになったのは大学に入ってから。そこからは本を読むこと自体や、場所をつくることへの興味が膨らんできたんだと思います。

東京で過ごしたサラリーマン時代、近所の古本屋で毎週ギターを弾いたり、オープン前から気になっていた水中書店さん(三鷹にある古書店)に足繁く通ったりしていました。本屋にかかわらず、居心地の良いお店が好きなんです。中高生の頃から、自分が居たいと思えるところに行きたいと思っていたけど、当時の恵那にそういう場所はなかった。そういう経験が庭文庫の原点になっているのかも。

 

(みきちゃん)
私は子どもの頃から本が大好きで、たくさん読んでいました。でも、当時、地元の沖縄には大きな本屋がありませんでした。進学で大阪、就職で東京へと行ってからは、大型書店によく通いました。書棚を一通り全部見るのが好きですね。その後、古本屋にも行くようになりました。もうひとつ、本屋のいいところは、本屋は欲しいものがなければ、何も買わなくてもいいことかな。

印象的だったのは、みきちゃんの「本屋は欲しいものがなければ、何も買わなくてもいい」という言葉。欲しい本が見つからなくても、本屋という空間の中にある何百何千という本のタイトルを見ていると、多くの言葉に出会えてわくわくします。

庭文庫は本を買うだけではなく、日記を書いたり、コーヒーを飲んだり、あるいは何もせずにぼんやりすることもできる空間です。おふたりの話を聞いていて「何かしていても、しなくてもいい場所」となっている庭文庫の原点が見えてくるような気がしました。

(ももちゃん)
ここは本屋だけど、本を売るだけの場所でなくてもいいと思ってます。忙しくしている人がふっと立ち止まり、自分の時間に帰ってこられる場所であればいいな、と。ここは僕たちにとっての居たい場所でもありますが、来てくれる人にとってもその人が自分の時間の中で自然にいられる場所であればいいかな。

私も、オープン初日に庭文庫に訪れたときから、どこか不思議な懐かしさを感じていました。それは、かつて人が暮らした場所だったからというのもあるかもしれないし、ももちゃんとみきちゃんが営む庭文庫ならではの空気がすでにあったからなのかもしれません。

庭文庫で心の深呼吸をして、自分のリズムを整える。私にとって、庭文庫は自分の時間の流れに身を委ねられる場所になっています。

これからは「泊まれる古本屋」や、出版社としての活動を展開していく構想もあるのだそう。今後の庭文庫がますます楽しみです。

アバター

ゆっきー

名古屋生まれ、あま市育ち。岐阜県中津川市でギャラリー運営に携わったのち、名古屋にUターン。名古屋を離れたことでさらに名古屋が好きになり、もっとを知りたいと感じるように。現在はWEBライターをしながら、エッセイや短歌などさまざまな形で言葉を紡いでいる。
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