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大ナゴヤノート.
2019年07月10日

岐阜・高山から日本の林業の「循環」を変えていく
-飛騨五木株式会社 井上博成-

林業の視点を通して、さまざまな魅力を発信!「日本の森がもっとワクワク」の取り組み」でもご紹介した、岐阜県・高山市にある飛騨五木株式会社。そこで働く井上博成さんに私が出会ったのは、今からおよそ1年前のこと。言葉を選ばなければ、第一印象は「とてもパンチのある方」でした(笑)だって地域経済に対する熱量が、とてつもなく大きいんですもの。

知ってますか?ドイツでは林業は自動車産業より盛んな産業なんです!
私は林業、そして経済を、高山のまちから変えていきたいんですよね。

「産業を変える」だなんて。そんなこと、人生で一度も考えたことがなかった私にとって、かなりパンチが効いていました。振り返ってみても、そこまで大きな目標を掲げる人に出会ったことはありません。
だから、そんな熱意を持つ人が岐阜にいて、しかも林業という、知っているようで知らない業界で働いていることに、とても驚いてしまったのです。どうしてそこまでの熱量がかけられるのでしょう。

ただ、井上さんの表情から「なんだか面白そうだぞ」とは感じました。
ということで、ご本人に直接お話を聞いて、その熱源に触れてみたいと思います。井上さん、よろしくおねがいしまーす!

(右)飛騨五木株式会社・井上博成さん

まず気になるのが井上さんが籍を置く、飛騨五木株式会社という会社について。聞けば「井上グループ」というグループのひとつだそうです。

「井上グループ」は、私の父や叔父が代表を務める会社で構成されていて、林業に関するさまざまな事業を展開しています。特徴的なのは、グループ内の企業が「森と暮らしを支える」を軸に循環している点です。林業の一部ではなく全体を網羅し、循環している。そんなイメージです。

井上グループ7つの連携体制。川上から川下へとバトンを渡しています。(画像提供:飛騨五木株式会社)

この中で飛騨五木株式会社は“地域商社”と名乗っています。商社って業態は、いわば何でもアリじゃないですか(笑)まさにそのとおりで、林業のことを何でも発信しよう!と、いろんな取り組みに挑戦しています。

就職支援イベントなど、一見すると林業とは関係なさそうな事業も展開

この体制ができたのは、今から約4年前。井上さんが地元に戻ってから、必要な企業を立ち上げたり、体制整備を進めたりしてきたそうです。
現在も京都大学大学院経済学研究科博士課程に籍を置く井上さんは「遅くとも25歳ごろには高山に戻るつもりだったので、準備は進めていました」と語ります。ただ、実のところ「戻り方」については定まりきっていなかったそうです。

戻るからには、何か「お土産」を持ち帰らなければと考えていました。でも持ち帰られるお土産はすぐには決められなくて。転機のひとつとなったのが、東日本大震災でした。福島原発をはじめとする大災害を目の当たりにして、地域が自ら持つ資本を自活的に生かしていくことが重要ではないかと強く感じたんです。そして地域を元気にする“種”として、森林やエネルギーは不可欠だという考えに至りました。

井上さんの研究分野は経済学。中でもテーマとしていたのが自然エネルギーや地域金融です。自然エネルギーの活用方法や地域のお金の動きなどを研究していたことが、結果として地域経済の活性化への原動力となったのです。

一方で「どうしてグループの体制の整備までしたのだろう?」という疑問も浮かびます。自然エネルギー産業だって、高山のまちの中では新しい取り組みのひとつだったでしょう。新しい取り組みを深めるのも十分な「お土産」に感じるのに、どうしてさらに大掛かりなことにも取り組んだのか。背景についても聞いてみました。

自分のバックグラウンドも影響したんでしょうね。バイオマスエネルギーを研究する中で感じたことなのですが、例えば1本の木が育つまでには、何十年もの月日がかかります。それをエネルギー利用のために燃やすだけなのは、非常にもったいない。うちでは祖父の代から木を育ててきましたから、その点は余計に強く感じました。それで、エネルギー事業は発展の起因となっても、林業全体の根本解決には至らないと気づいたんです。

最初は林業の中の一事業を立ち上げるだけでしたが、どんどん視野が広がって。そして「余すことなく木を活用する方法」「林業にかかわる誰もが生かし合うサイクル」という、“林業の生態系”をつくり、成長させることが私の目標になりました。

さまざまなイベントも開催。毎回、多くの人が参加しています

それから現在までは、とにかく木や森、林業に関することには何でも挑戦し、トライアンドエラーを重ねながら、さまざまな事業を展開してきました。近年は大手企業とコラボレーションして店舗建設や運営の指揮をとったり、森林教育プログラムの発案に携わったりと社会貢献の取り組みにも手腕を広げています。「企業さまの木や緑を活用したいといった悩みにも十分こたえられると思います。さまざまな使い方のノウハウはばっちり貯まってきましたから(笑)」と、その表情にも自信がにじんでいます。

そういえば、どうして井上さんは地元に戻る際「お土産を持ち帰る」ことを固持したのでしょうか。私自身もUターン経験者ですが、「お土産を持ち帰る」発想はなかったので、ちょっと気になりました。

これもバックグラウンドにつながるんですが、もともと私が「自分の仕事をつくる」ことを重視する環境で育ったからなんです。父も叔父も、それぞれ林業や建築を営む家庭で育った中で、自分の仕事を見出していきました。だから私も自然と“自分の仕事”をきちんと見出さなればと考えていました。

将来的には、高山のまちに大学を設立することを通じて、地域からどんどん起業する文化も根付かせたいと思っています。自分もそうだったように、学問などの知に触れ、自身の価値観が磨かれ、その上で新しい挑戦に挑む人の後押しができたらと思っています。

井上グループや飛騨五木株式会社について解説する井上さん

振り返っても、今まで誰もやってきていないことばかりに挑戦していますから(笑)、苦労もありました。けれど、おそらく人々が木というものを受容しない文化は来ないでしょうし、それに価値をつけて発信すれば、新しい林業の在り方をつくれると思うんです。私自身この仮説は実現できるのではと、とてもワクワクしています!

「この次に挑戦したいのは…」と、今後の展開にも話題も尽きません!

新しいことに挑戦する。そのとき、誰もが期待と同時に、苦労や不安を抱えるものです。どれだけうまくいく算段をつけられたとしても、不安の種がいっさいなくなるわけではない。でもそれが“ある”とわかっているから、前に進める。多分それが、自分自身を動かす勇気になるんじゃないかと思えてなりません。

「自分には何ができるんだろう?」
問いそのものは小さなものかもしれませんが、ひとつの問いが巡り巡って新しい仕事や文化を生み出して、どんどん広がっていくと思うと、自分にも何か大きなことに挑戦できるかもと、私も何だか勇気をもらえました。

伊藤 成美

名古屋市生まれ、瀬戸市育ち。デザイナーや玩具の企画開発アシスタント、学習塾教材制作などを経て、縁あってwebメディア運営会社のライター職に就く。インタビュー記事の執筆を中心に経験を積んだ後、フリーランスに。大ナゴヤ大学では、ボラスタや授業コーディネーターとして活動中。
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