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大ナゴヤノート.
2020年05月27日

愛知県のラッコの軌跡をたどる
-のんほいパークとラッコのヤヨイの思い出-

愛知県豊橋市のとある交差点。
道の向こうをふと見ると、あれは、ラッコ?

ほっぺたを毛づくろいしているようなポーズ。

大きな海に漂っているかのように、ラッコの像が空を仰いでいます。
どうしてこんなところにラッコがいるのでしょう。

まちなかで出会えるひとつの像から、愛知県のラッコの軌跡をたどってみます。
え、ラッコの像に注目する理由ですか?
ただただ、三度の飯よりラッコが好きなんです。

 

実は、このラッコの像があった道沿いに目をやると、ゴリラにクマにシマウマに、すぐ近くのJR二川駅からある方向に向かって、動物の像がいくつも立ち並んでいます。これらは像の土台に書かれているとおり、「のんほいパーク(豊橋総合動植物公園)」へ続く道に設置されたもの。電車を降りてから、動物たちと会うまでのワクワクを高めてくれます。

のんほいパークまで誘導してくれる動物たち。ゴリラ、クマ、シマウマの奥にラッコの像があります。

二川駅から南へ。「大岩町本郷」の交差点の手前にラッコはいます。

じゃあ、のんほいパークにはラッコがいるのかなと思うと、残念ながら今はいません。この像はラッコがいた頃の名残です。

そもそもみなさん、日本全国の水族園館にラッコが何頭いるかご存じですか。
2020年5月現在、5園館7頭です。「そんなに少ないんだ」と驚かれる方もいるでしょう。誰でも知っている動物ですし、自然と感じる親しみやすさがたまらないので、そう思われるのかもしれません。日本では1982年から水族園館でのラッコの飼育が始まりました。みんなの人気者として、一時は日本中どこでも会えましたが、その数は年々減っています。

のんほいパークは、愛知県で最後までラッコを飼育していた動植物園です。ヤヨイという名前のメスのラッコがいました。私はラッコに魅了されて10年ほどで、ヤヨイには2011年から3回会いにいかせてもらいました。9年前に撮影した動画を見ると、飼育員さんからもらった、蟹の脚をカンカンと水槽のガラスに打ち付けて、おいしそうに頬張っている。とってもキュートです。

2011年にのんほいパークを訪れた際に撮影した写真です。

すぐ目の前まで泳いできてくれました。

ヤヨイは、2014年1月25日に老衰で亡くなりました。当時、国内では2番目に高齢だった19歳。私も訃報を知り、お別れに足を運びました。ヤヨイの水槽の前には、全国からたくさんのお花が届けられ、メッセージを記すノートには長年ファンだったという人の声も。大勢の人に元気を与えてくれたんだなぁと、寂しさとともに尊敬の気持ちが湧いてきたのを覚えています。

ヤヨイが亡くなったときの水槽の前の様子。

19歳10か月で亡くなったヤヨイ。ちなみに現在国内には、20歳以上のラッコが数頭います。

緊急事態宣言が出される前に、何年かぶりにのんほいパークへ行きました。ヤヨイが暮らしていた水槽では、今はゴマフアザラシが元気に泳いでいます。ラッコに限らず動物好きなので、のびのび歩きながら、日頃の心の疲れを癒やしてもらいました。でもやっぱり、ふとヤヨイを思い出しますね。園内のちょっとしたところにラッコの影を探してしまう。きっと何年経っても、ここはヤヨイを思い出す場所であり続けるのでしょう。

「ゴマフアザラシ」のところに「ラッコ」と書かれていました。今でもうっすら透けて見えます。

 

園内を歩いていると、こんなものも見つけました。

のんほいパークの一角にひっそりとある慰霊碑。初めて気がつきました。

「ラッコ慰霊碑」?
近づいてみると、「ラッコ慰霊碑」と刻まれた石の前には、駅前のラッコ像の縮小版が。隣の石には「平成七年三月吉日建之」との文字。慰霊碑の裏を覗くと「ロシア コマンドル諸島より来園したラッコがここに安らかに眠る」と彫られています。職員さんに尋ねてみると、のんほいパークで初めて飼育した、ロシアからやってきたラッコたちが亡くなったときにつくられたと教えてくださいました(突然の質問に丁寧に答えていただきありがとうございました)。25年以上前に始まっていた、のんほいパークとラッコの歴史が、ここにも垣間見えます。

 

日本でラッコが飼育されるようになって40年弱。やってきた頃は知名度の低い動物だったそうです。その後、数年間で爆発的に人気が高まり、今ではみんな知っている、おなかで貝を割ることでお馴染みの動物になりました。けれど今、どんどん簡単には会えなくなっています。のんほいパークは、そんなラッコたちとの歴史の一端を見つけられる場所です。
ラッコは、国際的に絶滅危惧種の動物です。個人的には「数が減ったならどこかから連れてきたらいい」と、軽はずみには考えたくありません。輸入にもいろいろな課題があるといいます。もしかしたら、ラッコと水族園館では会えなくなるかもしれない。未来はどうなるか分かりませんが、ヤヨイが私たちを笑顔にしてくれたような、ラッコたちとの記憶をこれから先もつないでいきたいと思っています。

のんほいパークを訪れる機会に、ふとラッコのことを思い出してもらえたらうれしいです。

 

のんほいパークは、5月26日より豊橋市と近隣の方のみを対象に開園を再開しているようです。今後の開園状況については、のんほいパークのWebサイトをご確認ください。

写真/小林優太

小林優太

愛知県あま市出身。キャッチフレーズは「あま市と歴史とラッコを愛す」。普段は、コピーライターだったり、大学講師だったり、まちづくりに関わる人だったり。大ナゴヤ大学では、2012年からボランティアスタッフ、授業コーディネーターなどで活動。
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