toggle
大ナゴヤノート.
2020年03月04日

自分の「可愛い!」が手に取る人と福祉をつなげる-NPO法人 ひょうたんカフェ 井上愛-

「可愛い!」

色とりどりな“さをり織り”が私の目に飛び込んできました。いろんな色や形の糸で紡がれたポーチやかばん、ストールが所狭しと並んでいます。

「これは障がいのある人が作った作品なんですよ」
そう笑顔で話すのは、NPO法人ひょうたんカフェの副代表理事を務める井上愛さん。金色の髪と優しい表情が印象的です。ひょうたんカフェは、中村区にある障がいのある人が通う事業所で、“さをり織り”の作品を作る拠点でありつつ、カフェの運営もしています。

ひょうたんカフェ副代表理事の井上さん。写真は星が丘テラスでの出店の様子。

“さをり織り”とは、色や織り方、織り機、素材などに制約がなく、自分の感じるままに自由に織る手織りです。井上さんが障がいのある人の作った“さをり織り”と出会ったのは、趣味で通っていた織り物教室の展示会だったとか。

展示されたものの中に、“ぞろぞろ”と色が奇抜な作品があって、つい引き込まれてしまったんです。それが障がいのある人が作ったものだと知ったときはハッとさせられました。
当時から障がい福祉の分野で働いていたのですが、それまでは、「障がいのある人=支援の対象」だと考えていたところがありました。でも作品を通じて、障がいのある人は自分にはない力を持っているのだと気づかされたんです。それからは、織りの可愛さをみんなと共有したいと考えるようになりました。

障がいのある人の織りに魅了された井上さん。職場の施設長に掛け合って、織り機を購入してもらい、スタッフや利用者と一緒に織っていたそうです。しかし、障がいのある人の生活を支える入所施設では、ずっと織り物をしているわけにもいきません。そこで井上さんは仕事を辞め、ひとりで織り物教室を始めました。地元に暮らす主婦も、学生も、障がいのある人もみんな同じ生徒という立場。そこでも、障がいのある人の作る織りの良さをみんなが感じ、驚いていたといいます。

色とりどりの糸が自由に掛け合わされた“さをり織り”。

井上さんは織り物教室を3年続けましたが、障がいのある人に経済的負担をかけずに織りを続けてもらうにはどうしたらいいんだろう、可愛い織りとずっと一緒にいたいと考えました。そして思いついたのは織り物教室から福祉サービスに転換すること。月謝をいただいて障がいのある人に“さをり織り”を続けてもらうのでなく、日中活動の場を提供し、材料費のみの負担で織りに取り組んでもらうのです。前職の同僚を代表として巻き込み、NPO法人ひょうたんカフェを立ち上げました。

「ひょうたん」の由来は、中村区のシンボルマークだからです。以前働いていた施設も、織り物教室を開いていたのも、当時住んでいたのも中村区。なじみのある地域の要素を取り入れてみました。「カフェ」は、ゆくゆくできたらなあという思いはありつつ、単純に好きだったことと、人が集まる場所になればいいなあという思いを込めて名付けました。

NPO法人ひょうたんカフェは、たくさんの事業を運営しています。織りは今では障がいのある人の仕事になっています。一方で、利用者すべてが織り物を得意とするわけではないため、地元に根付いたお豆腐屋さんも始めました。せっかくなら他の障がい福祉事業所がやっていないことをやろうという発想でスタートしたそうです。現在の拠点に移転した際に、スペースも広くなったので念願のカフェも開業しました。

ひょうたんカフェの外観。テラス席もあります。

カフェの奥にはたくさんの糸と織り機。

障がいのある人の“さをり織り”の魅力を日々発信し、地域に開かれたカフェができて5年以上の月日が経ちました。周囲の人や地域にどのような変化や反響があったのかを井上さんに聞いてみました。

あまり考えたことなかったです(笑) でも、一般的に障がい者施設って中に入るにはハードルが高いじゃないですか。カフェがあることで、足を運ぶ目的ができて入りやすくなったという声はあります。おからドーナツのテイクアウト販売もしているので、近所の主婦の方や学生さんもふらっと買いに来てくれます。
“さをり織り”に関しては、百貨店に出店した際にテレビなどで知って足を運んでくれる人がいました。「福祉だから」ではなく、一緒に「可愛い」と言える人のところに届けたい。その方が作品を大事にしてもらえると思います。

私は「あまり考えたことがなかった」という回答にびっくりしましたが、それだけ井上さんが自分の感じた「可愛い」という感覚を大切に進んで来られたのだと感じました。

織り手の数だけ織り方のバリエーションがあります。

商品は小物が入るポーチからトートバッグまで、幅広いラインアップ。

売り場を訪れていたお客さんからも、「以前に他のお店で見かけて、ファンでした」という声を聞きました。「可愛い」が障がいのある織り手とそれを手に取るお客さんをつないでいて、また、井上さんが彼らの作る“さをり織り”に惚れ込んでいるからこそ、その良さを語る姿はとても生き生きと感じられました。こんなエピソードも教えてくれました。

障がいのある人の発想って本当に素敵なんです。最近は伝統工芸のひとつである「鳴海絞り」ともコラボをしていて、職人さんから直接絞りを教えてもらっています。力強く絞ることで美しい模様が生まれるので、その伝統を教えるために、ゆるく絞った失敗例を見せてくれました。ひょうたんカフェのメンバーがそれを見たとき、「こっちの方がぼやっとしていて可愛い」と言ったんです。職人さんも初めは驚いたかも知れませんが、今では彼女達の感覚や想いに耳を傾けながら一緒に楽しんでくれています。

鳴海絞りの技術をアレンジした靴下。

“さをり織り”やカフェで多くの人を魅了しているひょうたんカフェ。きっといろんな団体やイベントから出店してほしいと声が掛かるのではないかと思い、出店先はどのように選んでいるのか聞いてみました。

出店先は“ご縁”だと思っています。だから、声を掛けてくれたところは基本断らないですね。織り手の人たちは、誰にでも喜んでもらいたいと思っているので、自分が作品を届ける先を狭めてはいけないなと思っています。織り手のみなさんが自由な発想で作品づくりができる環境を作ること、その作品と織り手の想いをたくさんの人に届けることが、福祉の専門職である自分の役割だと思います。常に私には織り手が一緒にいるんです。

自由な発想の織りとタグが何とも愛らしく感じられます。

井上さんは、彼らと関わっていく中で自身の感じ方に変化があったと言います。

“さをり織り”を商品にし始めたときは、売れる商品づくりにこだわっていました。今では、そのとき以上に織り手の力を信用しているので、どんどん自由な発想で作品を作ってもらいたいと思っています。障がいのある織り手たちが作る、“予測のつかないもの”に魅力を感じるようになったんです。

NPO法人ひょうたんカフェは、日々新たな取り組みにも挑戦しています。2020年1月には、「東海ふくしミーティング」というイベントを初めて開催しました。もっと織りの可愛さを届けたい、織り手がお客さんとつながるきっかけを作りたいとの思いで、障がいのある人が作った“さをり織り”のファッションショーを中心に据えた企画です。
私も2日目のファッションショー「pichi-pichi コレクション2020」を見に行きました。客席は満席に近い状態で、参加者にもお客さんにも笑顔のあふれる空間でした。

織り手が自身の織りを身にまとって登場しました。これだけたくさんの人が関わっていることにびっくりします。

ひょうたんカフェのファンでいてくれることも嬉しいけど、「利用者の○○さんのファン」でも構いません。それは織りにこだわらなくても、絵でも絞りでも。「あの人がいるから会いに来る」というのが理想です。いずれは、利用者さん一人ひとりの個性が立つプロダクトも作れるといいなと思っています。

井上さんは障がいのある人と個人がつながることを目指しているそうで、この企画はまさに作品のファンと織り手が出会う場でした。織っている人を知ることによって、より作品に愛着を持つことができるのではないかと感じました。

東海ふくしミーティングのFacebookページはこちら

織り手とお客さんをつなぎたいという思いから、ひょうたんカフェはもうひとつ新たな取り組みを始めました。Instagramのハッシュタグ機能を活用して、織り手とお客さんをつなぐことです。お客さんと店頭で話をすれば目の前で反応を見ることができますが、織り手の中には重度の障がいがあるためになかなか外に出てお客さんと直接出会えない人もいます。

織り手とお客さんがつながるツールはいろいろあるんじゃないかなと思っていたんです。そんなときIT関係の会社の方からハッシュタグの活用を勧められました。Instagramに気に入った商品を投稿することって、お客さんにとっては日常の一部ですよね。「#織りじなる」をつけてアップしてもらえば、お客さんに負担をかけることなく感想や商品の届き方が見えるようになるんじゃないかと思って、実験的に始めてみたんです。

“#織りじなる”を使って投稿してくれた人にはステッカーも配布しています。

井上さんが「可愛い!」と心動かされた“さをり織り”を外に発信していくにつれて、福祉の輪が自然と広がっていっているように感じます。また、可愛いと思ってもらえる商品を外に出していくことによって、お客さんが何気なく手に取り、「障がいのある人が作った」ことを知る。それは商品の付加価値になるのではないかと思います。

普段の暮らしの中で、障がいのある人と出会う機会はどれくらいありますか?
私も福祉の業界で働いていて、仕事やプライベートの中で福祉に関わりがない人が福祉と出会う場を日々作っています。福祉との出会い方のひとつがふと手に取った「可愛い!」だったなら、とても素敵だなと思います。
もしかしたら、あなたもどこかで何気なく福祉と出会っているかも知れないですよ。

写真:ひょうたんカフェ、おかん

おかん

おかん

福井県出身。大学時代を大阪で過ごし、現在は名古屋で福祉のまちづくり・ヒトづくりに関わる。ゲストハウスとの出会いからまちに興味を持ち始める。ライター初心者だが、自分なりにまちを面白がり、その魅力を言葉にできたらと思っている。
関連記事