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大ナゴヤノート.
2020年10月07日

楽しいを大切に、仕事を選択する
-大工 つみき-

「この工具、かっこいいでしょう!」

いつも大工仕事や道具のことを、楽しそうに話す大工のつみきさん。“楽しい”状態でいるために、これまでどのように仕事を選択してきたのでしょうか。

仕事内容、給与、福利厚生、勤務地、自分のスキル、一緒に働きたい人がいるなど、仕事を選ぶ理由はさまざま。しかしながら「楽しい!」は、仕事を体験した後にしか得られない感覚です。インタビューではつみきさんが、どのように「楽しい」と思える大工の仕事と出会い、お金を稼ぐこととも向き合いながら続けているのかを伺いました。

つみきさんは、2018年3月に長く続けた保育士の仕事を辞めます。最初に、保育士に対する想いを語ってくれました。

保育士は、自分が仕事を嫌いになりそうだったから辞めました。離れてみて、改めて良い仕事だなと思います。今でも保育士さんを応援したいし、子どもを見ると気にはなるけど、当時はあまりの忙しさで仕事を嫌いになりかけていて、一度距離をおきました。勝手に涙が出てくる時期もあったりして精神的な面できつかったです。

退職後、就く予定だった仕事の話がいろいろあってなくなったとき、「面白い人がいるから」と、知人から瀬戸でゲストハウス「ますきち」を立ち上げようとしている南さん*を紹介されました。

* 「商店街の小さなお店が陶磁器の未来をつむぐ -CONERU nendo shop & spaceの挑戦-」の記事の南慎太郎さん。

南くんは朗らかな人で、話をいろいろ聞いてくれました。訪れたときゲストハウスは工事中で、現場を任されていた大工の六鹿さんが「お金は払えないけど手伝ってみる?」と声をかけてくれました。それで、やることもないし、やってみようと。

ますきちでの大工仕事の手伝いを、2018年11月まで続けます。この現場が終わる頃にはできる作業も増え、大工の六鹿さんから「次の現場もあるけど一緒に来る?」と声をかけられ、豊田市に新しくオープンするコミュニティレンタルスペース「kabo.」の現場に入ります。

大工の六鹿さんがkabo.のオーナーさんに話してくださり、アルバイトとして入らせていただきました。オーナーさんには、大工仕事としてなにができるかではなく、経験が浅くどれぐらいできないかを正直にお話ししました(笑)

「最初からお金をもらって大工仕事を手伝っていたら、『楽しい』という感覚は持てていなかったかもしれません」というつみきさん。「楽しい」を見つけるには、自分の感覚を素直に感じられる状態をつくっておくことが大切なのではないでしょうか。

順調に大工になるための道を歩んできたように見えますが、2019年6月にオープンするkabo.での工事の終わりが近づいてきた頃には次に入る現場が決まっておらず、進路に悩んでいました。そんなとき、馴染みの美容師さんから「持っている物件の2階が空いてるから店舗として使える状態にしてほしい」と仕事の話をもらいます。

仕事をくれた美容師さんが「いつでも保育士に戻れるんでしょう。いいじゃん、まだ大工を続けても」と言ってくれて、その言葉を受け取ったらなんだか気が楽になりました。自分が楽しくいられる道を選ぼうと、仕事を受けて大工を続けてみることに。2019年5月中旬からは新しい現場にも入りはじめ、ひとりで動く機会が増えてきました。無謀ですよね!(笑)

好きな仕事でも、楽しさを見出せない環境にいると、続けていくのは難しい。ところが、「楽しい」があると、やりたいことが自然と湧いてきます。つみきさんも、木工作品の制作やワークショップを行う「MISSTON」(女性限定DIYユニット)を立ち上げ、大工仕事の楽しさを広めているそうです。

この後、少しずつ友達から修理の依頼が来るようなったり、南さんたちからも追加で仕事をもらえたりしていきます。ただ、今は仕事が少ない状況で、「これから、自分はどうしていきたいのか」を改めて考えた結果、大工を続けながら保育士の仕事も始めたのだとか。

仕事が減る状況下で、改めてMISSTONの活動や大工を続けていきたいのだと気づきました。でも、お金がないとやりたいことができないとなったときに、どんな形でお金をもらえるかを考え選んだのは、資格を持っていた保育士の仕事でした。

「大工を辞めて保育士に戻る」というふうに“0”か“1”かで考えてしまいがちですが、大切にしたい価値観の優先順位をつけたうえで、“やりたいこと”と“できること”のバランスをとっていく方法もあるのですね。

最後に、こうも語ってくれました。

「自分が楽しくいられるように選択していく」。お金になったり、ならなかったりしますが…この感覚を大切にしながら、これからも働いていきたいです。

つみきさんが知人の紹介をきっかけに大工と出会ったように、やってみる機会はたくさんあります。いろいろとやってみるうちに自分なりの「楽しい」の価値基準が育まれていくのではないでしょうか。そして、自分の中にある「楽しい」を大切にしながら生きる。この方が結果的に、活動や仕事が長く続けられるのかもしれません。

写真提供:つみき

大野 嵩明

名古屋市西区生まれ。社会人インターンシップで石川県七尾市にあるまちづくり会社での活動を通じて、地域の魅力を伝えていく仕事の楽しさと大変さを知る。名古屋に戻ってからは、ナゴヤの魅力を発信し、面白くしていこうと活動。まちをみる視点を日々更新中。
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