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大ナゴヤノート.
2021年02月03日

まちにたたずむ書体を見つける

2021年1月5日。新しい1年がスタートしたばかりだというのに、私はスマホを片手に、パソコンを前に、しばし固まっていました。スマホのOSをアップデートしたら、なぜか保存していた約10年分の写真データがすべて吹っ飛んだのです。

幸い、元データはパソコンに保存していたため、データはすぐに復旧できました。ただ、枚数もかなり多かったので、念のため写真フォルダをひととおり見返してみることに。よしよし、見る限りは無事復活している様子…。ホッとしたのと同時に、あることに気づきました。

なんか私、ちょいちょい「文字」を撮っているな…。

例えばこちら。「あいちトリエンナーレ2013」の会場となった、閉館したボウリング場の建物内にあった標識です。

当時の私には、何か惹かれるものがあったのでしょう。確かにこの文字面は、今見ても「良いな」と感じます。以前記事にした、中日ビル閉館イベントでも、館内にあった文字をいくつか写真に収めていました。

さらには、大ナゴヤノート.のエディターたちと「新今池ビル」(昨年秋ごろから、解体工事が始まりました)を訪れた際の写真を見返すと…

もはや文字しか追っていません。風景とか外観とかも撮ったつもりでいたけれど、写真に収められていたのは、ご覧のとおり文字ばかり。私の目は文字しか追えなくなっていたのかと思うくらいの、執念すら感じます。

「めっちゃ文字好きやんか、自分」と、頭の中で謎の関西人がツッコんできました。いや、私だって自分のことながら驚きですよ。今の今まで、まったく意識してなかったんですから。

でもこれって、意識してやってみたら面白いんじゃないかしら。ふと、そんなアイデアが脳裏をよぎりました。もう一度、文字を撮った写真を見てみます。どうやら私は、「ちょっと“むかしっぽさ”が感じられる書体」を選んで撮っていたみたいです。

それなら、“むかし”をテーマに、まちで書体を集めてみたらどうだろう。
いっそ、SNSでまとめて発信しても良いのでは!

すぐにInstagramを立ち上げて、思いつく単語を用いてハッシュタグを検索。できるなら、これまで誰も使っていないハッシュタグで、撮った書体をまとめていきたいと考えたのです。そして、検索ヒット数がゼロだった「#むかし書体」「#書体蒐集」を使おうと決めました。

ゆるゆると続けていきたいと思ったので、「むかし書体」の定義は用意しませんでした。私が「むかし書体っぽいぞ」と感じたら、それが正解!くらいなノリです。しいて挙げるなら、「明らかな手書き文字は含めない」としたくらい。これも、なんとなくで決めました。

それからは、仕事の都合などでまちへ出向いた際には看板や標識を探索し、「あれ撮っておけばよかった〜!」と後悔しないよう、ちょっとでも気になったらすぐにシャッターを切るように。「#むかし書体」「#書体蒐集」を付けての投稿を始めて1ヵ月も経たないうちに常にストックがある状態になり、「これはいつアップしようかな〜」と選ぶのも楽しみのひとつになっています。

思わぬトラブルが、図らずも私にとって「楽しいまちの見方」を手に入れるきっかけになりました。自分がどんな書体だと「グッと来る」のかも、なんとなくわかってきたような気も。もうしばらく続けてみて、自分の中の「なんとなく」を分析してみたいですね。それも楽しみに、これから出会う「むかし書体」に思いを馳せたいと思います。

写真/伊藤成美

伊藤 成美

名古屋市生まれ、瀬戸市育ち。デザイナーや玩具の企画開発アシスタント、学習塾教材制作などを経て、縁あってwebメディア運営会社のライター職に就く。インタビュー記事の執筆を中心に経験を積んだ後、フリーランスに。大ナゴヤ大学では、ボラスタや授業コーディネーターとして活動中。
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