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大ナゴヤノート.
2021年12月15日

「ついついやってしまう」感覚を大切に
-「春日井さぼてん ラボ&ショップ こだわり商店」店主 出口美紀-

「頑張りたいけど頑張れない」
私にはそんな経験が何度もあります。どうにもやる気が出なかったり、面倒くさいと感じてしまったり。そんなときふと頭をよぎるのが、3年ほど前に出会った「春日井さぼてん ラボ&ショップ こだわり商店」店主の出口美紀さんです。出口さんを思い出すと、いつも前向きな気持ちになれます。

彼女は、春日井市の勝川駅前通り商店街でサボテン栽培とサボテン商品の販売をしています。「サボテンをもっと広めたい。食べてもらいたい」と春日井市勝川エリアで挑戦してきた彼女のエピソードをのぞいてみます。

まず伺ったのは商店街でお店をやろうと決意したきっかけです。勝川駅前通り商店街との出会いを尋ねるとこんな答えが返ってきました。

縁あって、弘法市の出店者として「くりの木ランチ」という産直の卵屋さんのシュークリームを売っていたのが最初です。そこで商店街の人たちの新参者への温かさを感じて。自分の住んでいるところが近所づきあいのあまりない地域だったので、商店街の人とのつながりって良いなと感じました。もともとお店を開きたいと思っていたので、この場所でお店を始めることにしました。

商店街の方々の新参者への心の広さに背中を押されて、この地でお店を始めることに決めたのですね。「どこで」頑張るかという点も、前向きに取り組めるひとつの重要な要素なのかもしれません。

サボテンの魅力を伝えるためにひと手間も惜しまない

商店街にお店をオープンする数年前の1996年から、パパイヤを使った健康食品を販売していたという出口さん。その後、「春日井市の特産で同じ南方の食物のサボテンはどうか」と考え、サボテン商品の開発を始めました。しかし、それには大きな課題がありました。

勝川に住んでいる知り合いに「うちわサボテンで健康食品をつくりたい」と相談したら、「まずはサボテンが食べられるということの周知が先」と言われて。一般の人は、サボテンに対してそんな認識なんだなと思って、少しへこみましたね。でも、「食べるサボテンでどんな商品ができるのだろうか」ということにすごく興味があって、大変な道のりだけどやってみようと思いました。

サボテンを多くの人に食べてもらうために、出口さんは試行錯誤していました。例えば、「なめるサボテン」もデザイン会社と二人三脚で、伝え方を試行錯誤した商品のひとつです。

この飴も、最初はサボテンのキャラクターを目立たせたデザインだったんですよ。春日井に観光に来られた方やお子さんをお持ちの女性に買ってほしくて。でも、このままだとどうしても春日井に住んでいる人や関心のある人しか買ってくれない。なので、デザイン会社と一緒に、緑のパッケージデザインをつくりました。日ごろ感じている疲れをサボテンで癒してほしいという思いで、サボテンのトゲを心のトゲとかけて、「心のトゲをそっと抜く」というコピーを考え、デザインもお薬を入れる袋みたいにしました。そうしたら、都会の若い女性に共感してもらえて。伝え方を変えるだけでこんなに変わるのか、と思いましたね。

さらに、サボテンの魅力を伝えるために、お客様への見せ方を工夫する点も大切にしています。

ひと手間かけるのとかけないのとではサボテンの広がり方が全然違います。ノベルティの個包装のサボテン飴一つひとつにロゴを貼ります。2,000粒に貼るなんて苦痛ですよ。でもね、頑張った分だけ結果が出ると思っているから。

今では、こうした地道な努力があって栃木県足利市のあしかがフラワーパークや静岡県伊豆市の伊豆シャボテン動物公園などの自然系の観光施設、愛知県名古屋市で毎年催される名古屋ウィメンズマラソンの給水コーナーに置かれるようになりました。ランナーさんがサボテン飴をSNSにアップしてくれることも、出口さんを勇気づけたといいます。

2020年7月には、サボテン商品をオンラインで購入できる「食べるサボテン 太陽の葉」を開設し、全国各地の人々が出口さんのサボテン商品を購入できるようになりました。とはいえ、原点は「商売をしながら、地域の人と人とをつなげたい」という思い。勝川駅前通り商店街の他のお店との協働や地域のイベント出店も精力的に行っています。

好きだから、楽しいからやっているだけ

出口さんへの取材の中で、印象的な言葉に出会いました。

頑張ろうとはしていない。好きだから、楽しいからやっているだけ。

理想を形にするためには「ついついやってしまう」という感覚があることが大事だと思いました。では、出口さんのモチベーションとはなんなのでしょうか。私は、届けたい相手に届いたときの感動が、出口さんにとってのお店を続けるモチベーションになっていると感じました。とりわけ私の心に残った、大学生とのエピソードを紹介します。

イベントでサボマ(ネギマの「ネギ」の代わりにサボテンを使った料理)を焼いていると、東京大学の学生が「僕の大学で焼いてくれませんか」と言ってくれて、焼きに行きました。もともと彼は春日井市出身で、「もっと関東でサボテンを普及させたい!」と。地元の子どもたちにとって、サボテンがアイデンティティになっていることに感動しました。

社会人1年目の私。入社して仕事に取り組む中で、目標と現状のギャップに悩む場面が多々あります。そうした場面に出くわしたとき、「ついついやってしまうことってなんだろう」と考えると目の前の壁を越えるのも楽しめる、という気づきを得ました。

写真/小林優太
写真提供/春日井さぼてん ラボ&ショップ こだわり商店

かずき

静岡県浜松市生まれ、浜松市育ち。静岡市内の広告代理店に勤務。商店街が大好きで商店街めぐりが趣味。大学時代に大ナゴヤ大学に出会い、まちに関わる人の魅力に気づく。大ナゴヤノート.では、「人が夢中になる瞬間とは」という問いを持って活動中。
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