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大ナゴヤノート.
2020年10月21日

動物瓦鑑
-屋根にあらわる動物たち-

9月20~26日は動物愛護週間、10月4日は世界動物の日と、秋はなにかと動物の話題の多い季節みたいです。行楽シーズンなので動物園などに行かれる方も少なくないでしょう。

実は動物園やペットショップでなくとも、まちにはさまざまな動物がひそんでいます。そう、建物の屋根に。今回は私がこれまでに見つけた実在する動物*1の瓦を紹介したいと思います!

*1 獅子や龍など架空の生き物はここでは対象外とします。

あの神社にはこの動物

狐さん、なにをのぞいているのかしら

トップバッターは狐さん。狐といえば、稲荷神社ですよね。この狐さんがいるのもまさしく稲荷神社。この地域を代表する稲荷神社のひとつ、“おちょぼさん”こと千代保稲荷神社…の名古屋支所(千種区)です。

“稲荷神社の狐”のように、神道や仏教には神仏に仕える特定の動物がいます。“天神さまの牛”や“春日神社の鹿”など、「神使」あるいは「眷属(けんぞく)」と呼ばれるこれらの動物たち。神社やお寺で見られる動物の瓦も、神使をかたどったものがほとんどです。建物の上から神聖な場を守っているのですね。

ところでおちょぼさん本社(岐阜県海津市)にも狐の瓦があるかというと、私が探した限りでは残念ながらなさそうでした。名古屋市内におちょぼさんの支所があるというのはあまり知られていないかもしれません。狐瓦を見たい方はぜひ名古屋支所へ。

山から下りてきた?

名古屋市昭和区の御器所八幡宮に隣接する神宮寺の敷地内に、小さなお堂があります。屋根の両隅を見やると…

お耳をふさいで…

なにか食べてる?(笑)

ポーズからすると、「聞かざる」「言わざる」のようですね(「言わざる」は手もとが折れてしまったみたい…/悲)。
「御嶽大神ゴキソ宮丸講社」との額が掲げられたそのお堂。なぜここにお猿さんなのだろう、と「御嶽(社・信仰)」「猿」をキーワードに検索してみたところ、「猿ぼこ」なるものがヒットしました。猿ぼことは、御嶽山にある十二大権現(神社)に供えられている人形で、子授けを祈願する人はお守りとして持ち帰り、子宝を授かったらお礼参りの際に12体の猿ぼこを納める習わしがあるのだそう。こちらの屋根にお猿さんがいるのも、もしかしたら猿ぼこにちなんでいるのかもしれません。

所変わって、名古屋市天白区にある不動山大学院。山門で出迎えてくれたのはこの子たちです。

「見ざる」でも「聞かざる」でも「言わざる」でもなさそうなお猿さんたち

こちらもお猿さんがいる理由を知りたく、お寺について調べると御本尊は大青面金剛(庚申)さまとのこと。なるほど、「庚申」は「かのえさる」とも読めますし、庚申さまの神使がお猿さんというわけですね。
このお寺のように庚申さまが祀られている場所では猿の瓦に出会える可能性が高いでしょう。あとは、日吉神の神使もお猿さん。なので日吉神社なども狙い目と思われます。

屋根より高い…

私が大ナゴヤ大学で瓦の授業をしたときに、東区東桜のお寺で遭遇したのがこちら。

波に乗る鯉さん

私は「お、鯉だねぇ」とちょっと頬を緩めた程度だったのですが、実はこの鯉がいるのは手水舎の屋根。すると、授業に参加された方からは「手水舎にあるから“水つながり”で魚なのかな」とのコメントが聞かれました。「ほほう、そういう紐づけ方も面白い!」と気づきをもらったのを覚えています。

尾張旭で見つけた鯉さんは白かった

鯉のぼりに代表されるように古くから出世の象徴とされている鯉。神社やお寺にも立身出世や発展の願いを込めて瓦の鯉がいても不思議ではありませんね。また、飾り瓦には防火の願いを込めて、水にちなんだモチーフが取り入れられることがよくあります。鯉も水中の生き物ゆえ、そうした意味も込められているのではないでしょうか。

一瞬、本物かと思うときも…

狐や鯉のように一目で飾りモノとわかるものもあれば、一瞬「本物がいる!」と思ってしまう瓦に出くわすことも。

銀色に輝く鳩さん!

こちらの写真の鳩さんは手の届く距離にあり光沢もあるため明らかに瓦だとわかりますが、高い位置にある、それも年季の入った鳩さんだとしばらく凝視しないと見分けがつかないこともあるのです。
え?大げさ?…そう思われる方はぜひお近くの神社などで探してみてください、鳩さんの瓦は比較的よく見かけます。鳩は八幡神の神使でもある以前の記事でも触れています)ので、八幡神社は特に出会える確率が高いかと。

鳩以外にも鳥さんの瓦はあります。が、めったに見られないレアもの。出会ったら迷わず捕獲(撮影)しましょう!

改築して間もないと思われるお寺の屋根にフクロウ発見!(逆光写真しかなくスミマセン)

瓦を追ってこれまで多くのお寺を訪ねている私ですが、瓦に限らずフクロウの絵や像などをお寺で目にした記憶はここ以外にないような…。ふと引っかかり、フクロウの縁起や仏教との関係などを探ってみると、なんと江戸時代以前には“不吉な鳥”として忌み嫌われていたとか。お寺で見かけたことがないのも頷けます。
一方で最近では、「フクロウ」に「福来郎」「不苦労」といった字を当てることができることから、“幸せを呼ぶ鳥”として親しまれてもいるようです。こちらのお寺の改築前の外観を、Googleストリートビューのタイムマシン機能過去記事参照で遡って見たところ、やはりフクロウの瓦は見当たりませんでした。つまり改築の際にフクロウの瓦を飾ったということ。お寺の方が幸せを招いてほしいという想いで飾られたのかもしれませんね。

三重県桑名市の春日神社(桑名宗社)の塀にいたのはこんな鳥さん。

鷹?鷲?鳶?

猛禽類っぽくは見えるものの、私にはなんの鳥だか……鷹と鷲の見分け方なども読んでみたけれどこの瓦の形状だけでは判別できず。首が長いので鵜の可能性もあるかしら。
桑名宗社となんらかの鳥が関係あるのか、という観点からもアプローチを試みたのですが、縁のある鳥はいなさそう…。そんなわけで鳥の正体は掴めていません。鳥に詳しい方、もしくはこの瓦の正体をご存じの方、ぜひご教示くださいませ。

左右のコンビネーション

ここまでの写真からも見てとれるように、飾り瓦は屋根の隅に載っていて建物の正面から見ると左右で互いにペアになっていることが少なくありません。お寺の屋根でよく見かけるのは獅子さんペアですが、実在の動物でよく見られるのは亀。亀も弁天さまなどに仕える神使です。また長生きの象徴でもあることから縁起の良い生き物としておなじみなのではないでしょうか。

首が長めで特撮映画の怪獣みたいですが、瓦の亀さんは大体こんな感じ

さて、左右でペアとはどういうことか。口もとをよーくご覧ください。右の亀さんは「ア」の形に口を開き、左の亀さんは「ン」と口を閉じています。ずばり、“阿吽”の亀さん!
同じように見えても口もとまで細かい仕事がされています。鬼瓦や獅子瓦でも同じように左右で阿吽になっていることが多いので、「口もとなんて今まで見てなかった!」という方は今度どこかのお寺や神社で確認してみてください。

もう1匹、緑区有松の祇園寺で出会った亀さんを。

やや奇抜な顔立ちの亀さん

お口は「吽」の形。ならば反対側にいるのは「阿」の亀さんかしら、と思いきや…

あら?兎さん!?

“兎と亀”!…ってイソップ寓話じゃ…?これはお寺の方の遊び心なのでしょうか??
「因幡の白兎」神話をはじめ、兎も神聖視される動物。そのため、他の神社やお寺で兎さんの瓦を見かけたことは何度もあります。でも兎なら兎どうしが左右対になっていたはず。“兎と亀”の組み合わせはこちらでしか(まだ)見たことがありません。

別の神社にて。耳がちぎれてしまった兎さんが境内に
(口からなにか吐き出しているように見えますがたまたま奥の岩に筋がついていただけです/笑)

ちっちゃくなっちゃった!?

この写真でなんの動物かわかるでしょうか…

正面から撮った写真しかないのでご容赦ください。象さんです。お鼻をパオーンと持ち上げているところ。
タイなど、アジア諸国では特に神聖な動物とされているイメージがあるのではないでしょうか。仏教では、お釈迦さまの生母・摩椰夫人がお釈迦さまを懐胎したときに、白い象がお腹に入る夢を見たという伝説があるのです。

この象さんがいるのは、名古屋市北区の普光寺。「普光寺」というよりも“北大仏”のお寺といったほうがピンとくるでしょうか(「北区に大仏!?」という方は検索してみてください)。その大仏さまに比べて象さんは随分かわいらしいサイズで、気づく人も少ないのではと思いますが、私はそんな象さんに心をくすぐられます。

一瞬、本物かと…part 2

先ほどの象さんは実物よりもかなり小さな象さんでしたが、こちらはどうでしょう。

眠り猫

もう1匹。

大あくびにゃう

なんだか本物の猫ちゃんが屋根の上でお昼寝したり、目覚めてあくびしたりしているみたいじゃありませんか。この猫ちゃんたちに出会ったのは、長野市*2の善光寺界隈。調べたところ、どちらも同じ作家さんがつくられたもののようです。ひとつのエリアでこんなふうに神出鬼没な猫瓦があると、ついつい屋根を見上げながらまちを歩きたくなってしまいますね。作家さんにはその意図はないかもしれないけれど、面白い仕掛けだなと思います。

*2 大ナゴヤ圏外ではと言われてしまいそうですが、“動物瓦鑑”ということでご容赦いただければ。


魚から鳥、ホニュウ類まで、いろんな動物たちがいましたね。私自身、こうして動物の瓦だけをまとめて眺めたことはなかったのでなかなか壮観です。また、猿ぼこやフクロウの当て字など、瓦をきっかけに調べて知ったこともたくさん。だから、瓦って面白い。

存在は知りながらも私自身がまだ行けていない動物瓦スポットもあるので、またストックが溜まったら「動物瓦鑑 vol.2」をお届けする日も来るやも。「ここにこんな動物瓦があるよ!」という情報もお待ちしております。

本文中では場所など詳しく紹介していないところも地図には印をつけていますので、実物を見に行きたい方は地図をご参照くださいませ。

写真:脇田佑希子、岡村(筆者の瓦めぐり同行者)

脇田 佑希子

愛知県海部郡生まれ。なんちゃって理系のサイエンティスト+編集屋+瓦を追うひと。暇さえあれば軒丸瓦を探しにまちへ繰り出すおさんぽ好き。まちに埋もれたお宝を、人それぞれに発掘できるような“仕掛け”を創りたいと日々思案を重ねている。
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