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大ナゴヤノート.
2021年06月16日

近所の高低差を探ってみる。ランニングで気づいたまちの地形

近頃、週に数回、近所をランニングするようになりました。
「走るならきちんとデータを残しておきたい」と、ランニングアプリを利用しています。どんなコースで走ったか、ペースはどのくらいかなど、自動的に記録してくれるのでとっても便利です。そんなデータの中でふと目にとまったのはコースの高低差。1kmごとにどのくらいアップダウンがあったかが分かります。すると、どうやらいつも同じあたりで、2、3mくだっている。

私が暮らしているのは愛知県あま市。県西部の濃尾平野に位置し、走っているコースも体感では真っ平らだと思っていました。それだけに、このちょっとした高低差が気になる、気になる。くだっているのはどこだろうと地図を見ると、あま市“沖ノ島”という地域…。

そういえば!沖ノ島のあたりは、昔は水辺だったのでは。名前の通り、島があったと聞いたことがある。
さらにそういえば!沖ノ島出身で武将・前田利家の奥方のお松の方が主人公だった大河ドラマ「利家とまつ」では、お松の方が船で故郷をあとにするシーンもあったような。
もしかして、かつて水辺だった名残で、周りよりも低くなっているのでは!

スマートフォンを眺めながら、そんな仮説が頭をもたげます。

予想したら確かめずにはいられません。地元の民俗資料館へ足を運び、学芸員さんに聞いてみました。“沖ノ島は水辺だったから低いのではないか説”の真偽はいかに。
ちなみに、学芸員さんも日々まちを走るランナーのひとり。データを見ながら、快くお話を聞いてくださいました。ありがとうございます。

沖ノ島のあたりが2、3mくだっているのは昔の名残なのか聞いてみると。

これだけ高低差があるんですね。確かにあの辺りが島だったというのは、古図にも記されてはいますが、実は詳しいことははっきり分かっていません。ただ、沖ノ島あたりが市内で一際低い場所ということもないと思いますね。

なるほど、沖ノ島の地名は島だったという話に由来しているが、水辺だったから低い土地になっているという説はハズレらしい。では、どうしてここに高低差があるのか。

沖ノ島の前に“富塚”あたりを通っていますよね。“塚”とつく地名は、まちの中でも比較的高い地域に付けられることが多いんですよ。だから、富塚から沖ノ島にかけて、くだっているのではないでしょうか。

つまり、沖ノ島あたりが低いのではなく、その前に通る富塚が高い土地なのでランニングコースに高低差が生まれたというのが真相のようです。

予想とは違いましたが、やはり地名の由来からまちの地形がうかがえました。さらに、住宅地図を眺めながら話は盛り上がり、「川岸を走ると低いのでは」「昔からの集落の中は高いだろう」と、新たに走って確かめてみたい場所が見つかりました。これからいろいろなコースを試してみたいですね。

旧七宝町(現あま市の一部)の郷土史に掲載されている、養老元年(717年)頃の尾張国、美濃国(今の愛知県、岐阜県)周辺を描いたという古図をご案内いただきました。画像は、見せていただいた図を参考に筆者が作成。赤い部分が今の沖ノ島とみられ、水に囲まれています。

アプリの記録から気づいた、感覚的には分からないまちの地形。平野の景色を楽しむのも良いけれど、地形を探ってみるのも面白い。まちを走る楽しみがひとつ増えました。ランニングやウォーキングがご趣味のみなさん、高低差や地名に注目してみると、まだ知らぬまちの秘密に触れられるかもしれません。

文・写真/小林優太

小林優太

愛知県あま市出身。キャッチフレーズは「あま市と歴史とラッコを愛す」。普段は、コピーライターだったり、大学講師だったり、まちづくりに関わる人だったり。大ナゴヤ大学では、2012年からボランティアスタッフ、授業コーディネーターなどで活動。
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