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大ナゴヤノート.
2021年07月21日

みんなが見つけた、まちにたたずむ書体

先日公開した「まちにたたずむ書体を見つける」では、“むかしっぽい書体”に注目してまちを見つめる面白さを紹介しました。「面白さ」といっても、すごく個人的な趣味嗜好。なので、記事を読んだ反応がどんなものか、ちょっとだけ気になっていました。公開後、記事を読んだ人から「前は気にならなかったのに、看板に目が留まるようになった」「注意してみると、古めかしい書体って意外と残っているんだと気づいた」なんて感想をいただき、書体好きとしてはうれしい気持ちに。

もっといろんな、すてきな書体を見つけたいなぁ。

そんな“欲”が出て、大ナゴヤノート.のエディターのみんな*に、まちにある書体を見つけてきてもらいました。私個人は「昔っぽい書体」が好きですが、今回はそれぞれが「好きだな」「良いな」と思ったものであればなんでもOK!とします。さて、いったいどんな書体が見つかったのでしょうか。
*今回は記事執筆前の新人エディターも参加しています。デビューをお楽しみに!

天ぷら屋さんの「揚げたておもちかえり」


大学から徒歩5分の場所にある天ぷら屋さんの看板。私はおしゃれなカフェを巡るのも好きですが、こうした親しみ深いレトロなごはん屋さんに行ってみたいという憧れもあります。手づくり感のある看板の文字は、1画1画が角ばっていながらも曲線を多用していて丸みがあり、思わず目を引かれます。「揚げたておもちかえり」という言葉にもなんだかほっこり。あったかい天ぷらを手にうきうきしている自分の姿を想像しちゃいました。今回取り上げたのをきっかけに、いよいよ足を踏み入れるぞー!
(文・写真/細川明日香)

ひらがなのやわらかいフォルムを大事にしつつ、太いマジックや平筆でぐいっと書いたような力強さがメリハリとなって、独特のリズムを生み出していますね。点の表現にこの看板を手がけた人のこだわりを感じました。「丼」や「げ」「お」の点を見ると、すべて真円。手書きの風合いがありながらも「デザイン(設計)されている」と感じられるのは、こういったささやかなあしらいがあるからだと思います。
ちなみにこちらのお店、イートインはあるのかしら。お持ち帰り専売だとしたら、天ぷらを買って帰る、お客さんのうきうきとした姿を思い浮かべながら書かれたものかもしれませんね。

食事処の「明智山荘」


ノスタルジックなまち並みが広がる、岐阜県恵那市の日本大正村。看板に注目してみると、目をひかれる味わい深い文字がいくつも見つかります。この写真もそんな看板の一枚です。恵那市といえば明智光秀ゆかりの地。武将好き、歴史好きとしては、桔梗紋と「明智」という名前に自然と目がとまりました。これはフォントなのか、デザインされたロゴなのか。個人的には「智」の部首の「日」の傾き具合と、「山」の縦棒の刀を思わせる反り具合が気に入り、写真におさめました。
(文・写真/小林優太)

より手書き感が強いこちらは、いわゆる行書体ですね。力を入れるところはしっかりと入れつつも、抜くところはしっかり抜く。緩急のつけ方が秀逸です。

「智」の「日」は、横幅を広くするとボテッとしますし、縦長にすると余白が目立ちます。あえてひし形のように崩すことで「明智山荘」全体でバランスを整えたのでしょう。「山」は、最終画が左方向に払われるような筆運びから、「山」という漢字自体でも「刀」のフォルムを思い起こさせるなぁ、と感じました。

画像を拡大してみると、文字の周りが縁取られているのがわかります。職人さんが1文字ずつ丹念にトレースしたのかしら…。そんな想像をめぐらすと同時に、桔梗紋にはまったく目もくれていなかったことに気づきました(笑)

毛糸屋さんの「ヴォーグ指定教室 機械あみ学習システム」


シャッターを下ろした毛糸店で、山積みの段ボールの後ろにあった編み物教室の看板。その絶妙なバランスにグッと来ました。黒い背景に明朝体の流れるようなはらい、力強いはね。上下のインパクトある文字に挟まれて、真ん中のもにょもにょとした丸みのある文字が、窮屈そうに身を寄せています。違う書体どうしなのに、不思議と一体感があるのはなぜでしょう。表情の違う書体が共存するさまが、人間のようで面白いです。かつてここに通ったマダム達には、どんな人間模様があったのでしょうか。
(文・写真/榊原あかね)

あかねさんが見つけたこちらの看板、私もとってもグッと来ました!明朝体、丸ゴシック、それぞれ趣があって個性的です。昭和時代に使われていた書体にはデジタル化されていないものもあり、同じものを使いたいと思っても現代では難しいといったケースが珍しくありません。だからこそ、昔にあったすてきな書体を見つけると、どうしようもなくときめいてしまうのです。

明朝体とゴシック体の組み合わせは、昭和時代のデザイン物にはよく見られたもの。この教室が開かれたのは1970年代だったのでは、と妄想が膨らみました。インターネットで簡単に調べてみたところ、60〜70年代にかけて全国各地で教室が開かれるようになったようです。あかねさんが感じた「一体感」は、この時代だからこそ生まれたものといえるかもしれないですね。

理髪店の「アイロン」「パーマ」


カラフルな色合いが目に入り、理髪店の前で思わず足をとめました。よく見ると、「アイロン」の文字は迷路?一筆がきができる?と字の縁をなぞっていた自分がいます。なにかに見えそうで見えないもどかしさを感じました。それに、「パーマ」のマが正面と、右の面で違うことも発見。この看板にはたくさんの仕掛けが隠されているかもしれません。創造力を試されているようで面白いと思いました。
(文・写真/かとちゃん)

こちらの書体は、文字を使って「遊んでいる」といった印象ですね。「理髪店ならではのワードを用いてデザインをしてみよう」「文字の形は、四角四面に一つひとつ統一するのではなく、全体感として印象がざっくり整っていれば良いかな」。作者はそんな考えで、このデザインを仕上げたのではないでしょうか。文字としての読みやすさはある程度保ちつつも、それだけを目的としないところが、このデザインの面白さにつながっていると感じました。そういった意味では、かとちゃんが感じた「なにかに見えそうで見えないもどかしさ」は、作者の狙いどおりといったところでしょう。目を向け、足を止めてもらうためのデザインなのですから。

正賢寺の瓦の「正」


“瓦を追うひと”に書体を探せという指令を出すとこうなります、の図(笑)
名古屋市中村区にある「正賢寺」で出会いました。1画1画は、太くも柔らかさを感じます。3画目の止めは上にくいっと上がり、4画目から5画目はゆるやかにつながった字形。なんだか埴輪のキャラクターっぽくも見えてしまうのは私だけでしょうか。
ちなみに正賢寺には他の書体の「正」の字入り瓦もございました…おっと字数が(笑)それらは私のInstagramでご紹介します~。
(文・写真/脇田佑希子)

第一声は「なるほど、こう来たか」でしたよ(笑)わっきぃさん(脇田さん)の影響で日常的に瓦に目を向けるようになったものの、瓦の文字に深く着目する機会はなかったような。今回、写真を見て、これは「瓦だから」こういった形態になったのではと思いました。わっきぃさんが注目した4画目から5画目は、ゆるやかにつなげることで欠けるのを防いだのでは。さらに妄想を広げると、3画目の止めの上がり具合も、破損回避に加えて文字全体を整える意図があったのではと感じました。埴輪を思い起こさせる可愛らしい仕上がりには、製品としてのクオリティーと書体としてのバランス、それぞれを追求した結果が表れているのではないでしょうか。
それにしても、他の書体も気になります。いったいどんなものなのか…わっきぃさん、Instagramでの紹介、楽しみにしていますね!(わっきぃさんのInstagramはこちら

シュークリーム専門店の「エクレール」


新社会人となり今年から静岡市で暮らしています。仕事帰りに見つけたのが葵区伝馬町にある「エクレール」の看板です。

昔好きだったケーキ屋の看板とたたずまいや文字のフォントが似ていて、思わず立ち止まってしまいました。特徴的なのが、丸みを帯びた可愛げのあるフォントです。これはシュークリームの円形のフォルムを意識したのでしょうか。

「あのケーキ屋の店主さん元気かな」と、ノスタルジーな気持ちに浸りながら1日を終えました。
(文・写真/かずき)

実は、初めてこの写真を見たとき、看板の書体から受ける印象とシュークリーム専門店とがマッチせずに、ちょっと面食らってしまいました。隷書体をベースにしたものと考えられるこの書体。私の中でパッと思いつくのは、漢方や薬膳のお店の看板です。ただ、かずきくんの「シュークリームの円形のフォルムを意識しているのでしょうか」といった一文で、確かに言われてみればもこもことした感じは、シュークリームに通ずるものがあるように感じました。いかに私の思考回路が凝り固まっていたのかを気づかされた瞬間です。
個人的には、書体に目を向けることで昔を思い出すきっかけをつくれたのが、とてもうれしかったです。他の誰でもない、かずきくんだからこそ見つけられた書体なんだと思います。


当たり前ですが、同じテーマを設けても、着眼点や発想の方向性はさまざま。エディターそれぞれが自分の感性を頼りに探してくれたおかげで、予想以上に「自分だけでは見つけられない書体」に、たくさん出会えました。それと、自分で見つけていない書体に対してあれやこれや考えるのは初めての機会で、考察中は終始ニヤニヤしていましたね。つまり、すごく楽しかったってことです(笑)

次は、書体をテーマにオープンノート.を企画しても面白そう。読者の皆さんの目をお借りして、新しいすてきな発見を堪能したいです。

伊藤成美

名古屋市生まれ瀬戸市育ち。デザイナーや玩具の企画開発アシスタント、学習塾教材制作などを経て、縁あってウェブメディア運営会社のライター職に就く。インタビュー記事の執筆を中心に経験を積んだ後、フリーランスに。大ナゴヤ大学では、ボラスタや授業コーディネーターとして活動中。
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